ハロウィン。
小さいころから何となく、そういうお祭りがあるんだって知ってはいた。
ただ、それをしたことなんかなかったけど、いつの間にか日本でも定番のお祭りになってきてて、なんとなくゆめや美咲とお菓子をプレゼントする日っていう風になっていた。
今年もちゃんとお菓子を準備してたあたしだけど、お菓子を交換するという想像していた和やかなハロウィンとまったく違うハロウィンを過ごすことになる。
「……トリックアンドトリート」
ハロウィンの日。
学校を終わってまっすぐに家に帰ってきたあたしは、同じく学校帰りのゆめを部屋に迎えて
(………ん?)
首をかしげた。
何か今変なこと言われなかった?
この日にふさわしいようで、全然ふさわしくないことを言われた気がするよ?
「えーと、ゆめちゃん? 今なんて言ったのかな? おかしなこと言われた気がするんだけど」
ベッドで向き合って座るゆめにあたしは耳がおかしくなったかなとゆめに問いかけてみた
「……トリックアンドトリート」
(うん、おかしいね。……ゆめが)
似た言葉なはずなのにまったく違う意味になってるね。
「あー、とそれはどういういみでせうか」
突拍子もないことをするのがゆめではあるけど、この言葉は見過ごすとあたしに不利益しかないような気がする。
「……彩音からお菓子をもらっていたずらもする」
「強盗かお前は」
「……彩音は私のだから何してもいい」
でたよ。この理論。たまに無茶な要求するときに言ってくるやつ。自分が無茶なことを言ってるって自覚はあるんだろうけど曲げる気はないって意味意思表明でもあるのかも。
「あ―……えと、とりあえずお菓子をあげるからこれで満足してくれない?」
といって、あたしは手元にあるクッキーの入った包みを渡す。
でも、お菓子を素早く受取っておいてゆめの返した反応は
「……いたずらもする」
これ。
(……これは、引くつもりないな)
多分ゆめの中じゃすることは決まってるんだろうな。ここは変に抵抗するよりも受け入れちゃったほうが早いかも。
と、ゆめの扱いに手馴れるあたしはそう思って
「はいはい。じゃあ、好きにしてくださいよ」
うかつなことを口にした。
「……うむ」
とゆめは頷いてからあたしに這い寄ってくると
はむ
「っ!!」
首筋を甘噛みされた。
「ちょ……ゆめ!?」
ちゅぅぅ。
驚いているあたしをよそに激しく吸ってくる。痛くはないけど、なんというかゾクゾクする。
……慣れていると言えばなれているけど。
「……ん」
少しするとゆめは唇を離して、キス? をした場所を見つめて小さく頷いた。
「えー、っとゆめさん?」
「……彩音が私のものだっていう印をつけた」
「はぁ……」
説明を求めようとしたけど、先に答えが来た。いや、納得はできないんだけど。
「……この前、私に内緒で美咲に告白した、仕返し」
「この前って……月が綺麗ですねってやつ?」
「……うん」
なるほど、ね。ちょっとだけ納得いった。要はあたしと美咲がそういう思い出を作ったのが悔しいってわけだ。それでハロウィンにかこつけてこんなことをしたんだろう。
「はいはい。悪かったって。ゆめのことももちろん愛してるよ」
あたしは軽い感じにゆめの欲しい言葉をあげた。
「……知ってる」
本気を感じられないのが少し不満だろうけど、むちゃくちゃなことをしたって自覚のあるゆめは欲しい言葉をもらえたことに納得してくれたらしい。
ここですんなり終わってくれればよかったはずなんだけど
「にしても、首元はやめてよ。体育の時とか困るじゃん」
「……………」
「まぁ、今更騒がれたりはしないだろうけどさ」
余計なことを言ってしまう。
「……? どういうこと?」
「最近はキスマークがついていたところで美咲にされたって思われるだけなの。美咲も結構遠慮しないし。冷やかされるのはかわんないんだけ……っ!!」
呆れながら言っていたあたしは激しい痛みに表情を曇らせた。
「ゆ、ゆめ……?」
「………もっと、印をつける」
そう言ってあたしは首筋と言わず様々なところにゆめの印をつけられてしまうのだった。